「いつかは越えなければいけない壁。それなら早いうちに越えちゃいましょう!」
花園到着直前の応援バス車中で、応援団を代表してそんなコメントをさせてもらった。
取って、取り返されて…
いつ果てると無い激しい攻防。
覇者の意地に、選手だけでなくスタンドを埋めた応援団や各地から花園に思いを送るファンの気持ちが一丸となり、粘り強く喰らいついていくヤマハジュビロ。
そしてドラマはまたしてもノーサイド直前のロスタイム。
わずかにリードされた点差を、東芝反則によるペナルティキックから逆転。
このままロスタイムを守り抜けば勝利…というところでヤマハ側にまさかの手痛い反則。
きっちりとゴールを成功させた東芝が薄氷を踏むがごとくの勝利、と誰もが思ったかもしれない。
しかし、ノーサイドの瞬間まであきらめない強さが、最後の最後に大きなチャンスを引き寄せた。
ロスタイムも経過し、ボールが切れればホイッスルという場面で東芝反則によるペナルティキック。
このゴールの成否に勝負の行方が託された。
ネイサン選手がボールをティーに立て、1歩2歩と後ろに下がる。
最後までヤマハを応援し続けた割れんばかりの声援が、その瞬間ピタリと止み、スタジアム全体が静寂の中に。
蹴り上げられたボールが、弧を描きゴールバーの間に吸い込まれていく。
ゴールジャッジの黄色い旗が、サッと頭上に掲げられた。
スタジアムが歓喜の青いうねりに包まれる。
スタンドの仲間と握手をし、抱き合い、喜びを確かめ合う。
ジーンと目頭が熱くなる。
この感動的な場面に立ち会えたことの幸せを噛み締める。